オフィス・ラブ #Friends
だんだん、頭の中が白くなってきて。

堤さん、と思わず呼んだら、悪いことしてるみたいだから、やめて、と笑われた。



「名前でいいよ」

「………」



堤さんの名前って、知ってたっけ。

視線をさまよわせるあたしに、吹き出しながら教えてくれる。



「和之」



かずゆき、か。

びっくりするくらい普通の名前だけど、この人の名前だと思うと、綺麗に聞こえるな。


和之、と呼んでみると。

それが何か、彼の中のスイッチを押してしまったみたいで。


真っ白な世界で。

あたしはたぶん、発情した猫みたいに。


ひっきりなしに、鳴いていた。





あたしは彼を、淳(じゅん)さんと呼んでいた。

大森淳一という名前だったから。


ひと回りも上だけど、別におじさんて感じではまったくなく、見た目も年齢より若くて。

青年がそのまま歳を重ねたような、茶目っ気があって、冗談好きで、妙に無邪気であっけらかんとした性格で。

だけど確かに、マネージャーという立場と年齢にふさわしい、決断力と包容力を備えた人で。


とにかくあたしを可愛い可愛いって、優しく優しく、愛してくれた。

二年近く、三日と空けずに会っていた。

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