オフィス・ラブ #Friends
「素直に、面白くないって言いなよ」
「面白くない」
新しい煙草に火をつけようとしていた堤さんが、それを聞いて大笑いした。
乱暴にあたしを引き寄せて、音をたてて頬にキスすると、さっさと離れて煙草に火をつける。
雑だな、おい。
堤さんは、ヘッドボードの小箱から何か小さなものを取り出すと、煙草の先でそれに火をつけて、箱の横の金属の置物に置いた。
ふと覚えのある香りが漂って、気づく。
お香だ。
そうだ、堤さんの香りの正体は、これだ。
香水と混ざってたから、なかなかわからなかったんだ。
じゃああれ、置物じゃなくて、香炉か。
聞けば、好き放題に吸うくせに、部屋に煙草の臭いがつくのが嫌らしく。
じゃあベランダで吸えばいいのに、と思うけど、分譲マンションってそういうの禁止なんだよね、確か。
「香水自体も、変わってますよね」
「ああ、日本には、ないかもね」
オリエンタルな香りが満ちていく中、気持ちよさそうに煙を吐きながら言う。
「向こうで買うの?」
「上の兄貴が海外にいるから、こっち来る時まとめて買ってきてもらっちゃう」
「3人兄弟なんだ」
「そう、男ばっかり、3人」
「おんなじ。うちも女ばっかり、3人」
6つ上の姉は、地方に嫁いでバレエの先生をしていて、3つ上の姉は、都内の薬剤師だ。
堤さんのお兄さんは、なんと11歳も離れているらしい。