オフィス・ラブ #Friends


『なんでわかったの、石本さん?』

「ふふふ。売りに出るの、明日の朝イチ?」

『そう、いっせいに情報流すから、チェックしててね』

「3連のスペースだったよね。バラ売りしてくれないの」



雑誌社の営業さんが、うーんと少し考えている様子を見せる。



『それ、正式に明日問い合わせてよ。OK出すよう、手を回しておくから』

「やった、ありがとうございます!」



久々の、でかいバイイングだ。

これ、営業部も喜ぶだろうなあ。

どこか、レギュラーで出稿してくれるクライアントが見つかるといいなあ。

先輩にも、お礼しなきゃ。


ほくほくした気分で、駅への道を歩く。

昼間、さんざん太陽に焼かれたアスファルトは、日付が変わろうとしているこの時刻にも、まだしつこく生温かい。

薄着の季節って、解放的で好きだけど、こう猛暑日が続くと、いいかげん疲れるな。


そんなことを考えながら、地下鉄の入口へ向かったところで、見慣れたスーツ姿の背中を目にした。



「堤さん」



駆け寄って、ポンと腕を叩く。

階段を下りている途中だった彼は、ぎょっとしたように振り向いて、あ、と言ったきり、次の言葉が出ないみたいだった。


なにその、変な反応。


途中で折れ曲がっている階段の下から、堤? と声がかかる。

堤さんは、一度そちらを見たあと、またあたしを見て。

声の主に、軽く怒鳴るように返事をした。



「すみません、お先に、どうぞ」



その声も、どこか平静じゃない響きがにじんでいる。

あせってるというか、慌ててるというか。


どうしたんだろう。

ていうかさっきの声、あたし、ものすごく聞き覚えあるんだけど。

まさかね。

< 41 / 66 >

この作品をシェア

pagetop