オフィス・ラブ #Friends
『なんでわかったの、石本さん?』
「ふふふ。売りに出るの、明日の朝イチ?」
『そう、いっせいに情報流すから、チェックしててね』
「3連のスペースだったよね。バラ売りしてくれないの」
雑誌社の営業さんが、うーんと少し考えている様子を見せる。
『それ、正式に明日問い合わせてよ。OK出すよう、手を回しておくから』
「やった、ありがとうございます!」
久々の、でかいバイイングだ。
これ、営業部も喜ぶだろうなあ。
どこか、レギュラーで出稿してくれるクライアントが見つかるといいなあ。
先輩にも、お礼しなきゃ。
ほくほくした気分で、駅への道を歩く。
昼間、さんざん太陽に焼かれたアスファルトは、日付が変わろうとしているこの時刻にも、まだしつこく生温かい。
薄着の季節って、解放的で好きだけど、こう猛暑日が続くと、いいかげん疲れるな。
そんなことを考えながら、地下鉄の入口へ向かったところで、見慣れたスーツ姿の背中を目にした。
「堤さん」
駆け寄って、ポンと腕を叩く。
階段を下りている途中だった彼は、ぎょっとしたように振り向いて、あ、と言ったきり、次の言葉が出ないみたいだった。
なにその、変な反応。
途中で折れ曲がっている階段の下から、堤? と声がかかる。
堤さんは、一度そちらを見たあと、またあたしを見て。
声の主に、軽く怒鳴るように返事をした。
「すみません、お先に、どうぞ」
その声も、どこか平静じゃない響きがにじんでいる。
あせってるというか、慌ててるというか。
どうしたんだろう。
ていうかさっきの声、あたし、ものすごく聞き覚えあるんだけど。
まさかね。