オフィス・ラブ #Friends
ごめん、と小さく息をつく気配がする。


なんで堤さんが謝るの。

いいんだって、自業自得なんだから。

それより、堤さんにまで気まずい思いさせて、ごめんなさい。


そう伝えようと思って、隣に立つ彼を見あげたら。

悔いているように、心配そうに揺れる視線とぶつかって。


熱い塊が、喉の奥を駆けあがってきて。


何かが破裂したみたいに、一気に涙があふれ出た。




淳さんとは、路線は違うけど、駅が一緒で。

それも、始まりのきっかけだった。


本好きの彼は、いつも文庫本を読みながらてれてれと歩いていて。

早めに出社するあたしと、駅からの道でよく一緒になってた。


ある時、本を読みながら前を歩いていた彼が、いきなり踵を返して引き返してきたので、あたしはぶつかりそうになって。

すみません、と慌てたように言った彼の目に、涙がにじんでいたのをぽかんと見ていたら。



「いいところだから、読みきってから出社しようと思って」



早めに来てよかったよ、と文庫本を掲げて、訊いてもいないのに説明してくれた。

はあ、と少しあきれながら、あたしもけっこう本を読むので、なんの本か気になって。

出社前にコーヒーでも買っていくかなと思い立って、彼と話しながらカフェに入り。

飲んでったら、と言ってくれる彼に、早く読みたいでしょ、とテイクアウトにして、その場は終わった。

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