オフィス・ラブ #Friends
教わった本は国産の軽いSFで、帰りがけに買ったそれを早速読むと、確かにラストは泣かずには読めなかった。


次に会った時、それを伝えて。

素直な笑い顔と、意外な兄貴気質に、あたしがハマるのは、時間の問題だった。




「彩…」



途方に暮れたような声が、柔らかく響く。

突っ立ったまま、ぼたぼたと涙を落とすあたしを見かねたのか、堤さんが頭を抱き寄せてくれた。



「泣かないでよ」



独特の香りのワイシャツに、次から次へと涙が染みこむのを感じる。


お別れしてから、初めての涙。

あの時あたしは、自分に泣く権利なんてないと思って、渾身の力を振り絞って、涙をこらえたから。


これが、最初の涙。


でもね、堤さん。

あたしがなんで泣いてるか、わかる?


あたしはさっき、淳さんと堤さんを一度に目にして。

まだ、大好きな淳さんへの愛しさと、もう一緒にいられない切なさと、さみしさで、いっぱいになって。

あたしが子供だったせいで傷つけた、申し訳なさで、おかしくなりそうになって。


でもね、堤さんを見あげた時。

雷みたいに、何かが身体を突き抜けて。


すごく好きだって思ったの。


毎日一緒にいたいし、何度だって抱かれたいし、早くキスしたいって、思ったの。

あんな時なのに、そう思ったの。

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