オフィス・ラブ #Friends
答えは、出てたわけだ。

あたしは、この人が好きだ。



だけど、あたしですら非常識だと思うタイミングだったので、それを認めたくなくて。

気づいてないふりをしてたんだよね。


つまり、自己嫌悪とか、自己陶酔とか、そんな感じのもので。

そんなくだらない、勝手な感情で、ふらふらと、この人を待たせていたわけ。



あたしは結局、いつだって自分のことばかり。

別に、そんな自分を嫌いじゃないけど。

さすがにこう続くと、嫌になる。



「何か、言いなよ」



頭をぽんと叩かれて、はっと我に返った。

重たいまぶたをこじ開けて、隣の顔を見る。

こんな暑苦しい夜でも、その姿は涼しげだ。



「路上での喫煙は、条例で禁止されてます」



とりあえず思いついたことを言うと、すみません、と堤さんが笑いながら煙草を吸った。

言ったそばから、ふうっと夜空に白い煙を吐き出す。

あたしはいつの間にか、すっかり、この匂いになじんでしまった。



「初めて見た時も、泣いてたんだよ」

「え?」



あたしの話?

つかめなくて、その横顔を見あげると、煙草を口元にかざして、堤さんが優しく笑いかける。



「3月の、中ごろかな。ちょうど、この近所で、さっきみたいに、仁王立ちして」



あ。

わかった。


あたしが、淳さんにお別れを言った時だ。

確かに会社帰りだったから、このへんだ。

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