オフィス・ラブ #Friends
「自分から負け、認めちゃって」
「あれはただの気つけみたいなものだから、ノーカウント」
高校生みたいに、鞄を持った手を肩にかけて、しらっと言う。
嘘ばっかり。
あんなに優しいキス、知らないよ。
そっと包みこむように触れて。
相性を確かめるみたいに、何度かゆっくりと重なって、礼儀正しく、離れてった。
あんなに混乱してた中で、その温かさは、はっきりと覚えてる。
あれが、堤さんだ。
あたしが今、好きな人だ。
「ごめんね、うまく、ごまかせなくて」
ぽつりと、堤さんが言った。
会わせるつもりじゃなかったんだけど、とあたしを少し振り返って笑う。
ちょうど自動販売機の前だったから、綺麗な横顔が、逆光の中に浮かんだ。
そんな。
あたしこそ、と言う前に、堤さんが続けた。
「たまたま帰り一緒になって、ちょっと飲んだんだよね」
「まだ、つきあいあったんだ」
「いや、個人的にはなかったけど。営業局で元気にやってるかって、声かけてくれて」
旧部署の上司が、そこまで気にしてくれるもんなのか。
「そういう人でしょ、あの人」
疑問を口にしたら、堤さんがそう笑った。