オフィス・ラブ #Friends
そうだ、確かに。

そういう人。



「彩は、男の趣味がいいよ」



またちょっと、泣きそうになった。

こんなあたしでも、肯定してくれるの。


特別な人だったの。

将来を考えたのなんて、彼が初めて。



「でも、ありえないくらい傷つけたの」

「もしかしてあれ、別れ話だった?」



うん、と答える。

そうかあ、と高い位置にある月を見あげながら、堤さんがつぶやいた。



「じゃあ俺は、大森さんに感謝しないとね」



彩を、手放してくれて。


もう、やめてよ。

ほんとにまた、泣くよ、いいの。



「あの時、あたしに興味持った?」

「変わった泣きかただったから」



だから、泣いてなかったんだって。

なんだろう、自分なら泣かせないのにとか、そんなふうに思ったんだろうか。

そう言ってみたら、逆、と堤さんが笑った。



「泣かすなら、俺だって思ったんだよ」



住宅街じゃなかったので、思いっきり声を上げて笑うことができた。

それを見た堤さんは、安心したように微笑んで。


彼らしい、どこか愉快そうな足取りで、月明かりの下、あたしの手を引いて歩き続けた。



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