オフィス・ラブ #Friends

携帯のメールを眺めているところに、堤さんがシャワーから上がってきた。



「髪、乾かさなくていいの」



畳に座って、ガラステーブルを前にぼんやりとしているあたしの濡れた頭を、ぐしゃぐしゃとかき回す。

うん、といい加減な返答になった。



『誤解されやすいけど、堤はいい奴。幸せに。』



送ろうか、どうしようか、散々迷ったあげくのメールであることがわかる、半端な送信時刻。


幸せに。


あたしは息をついて、携帯を閉じた。



結局あたしたちは、なんと2時間弱の道のりを家まで歩きとおして。

疲れより暑さにばてかけていたあたしは、より近い、堤さんの家に上がりこんだ。



「熱帯夜って言葉も、聞かなくなったね」



カチンとライターの音がして、煙草の香りがただよってくる。

続いて、独特のお香の香りを感じた。



「当たり前ですもんね、最近じゃ」

「大森さん、なんだって」



画面を見たはずはないのに、鋭いな。

ベッドに座るかと思った堤さんは、あたしの横に腰を下ろして、ヘッドボードから持ってきたんだろう、灰皿をテーブルに置く。

ベッドに寄りかかって、畳に手をついたその腕が、あたしの肩に触れる。

シャワーを浴びたての熱い肌からは、あたしも使った、ボディソープのいい香りがした。

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