オフィス・ラブ #Friends
「堤は、いい奴だって」
そっか、と煙草を吸う。
せっかくの、いい元上司と、ややこしい関係にしちゃって、ごめんなさいと謝ると。
いいよ、と軽い返事があった。
「悪いことしてるわけじゃないし。俺も、知ってて誘ったんだし」
彩が気にすることじゃない。
あたしは、結局、堤さんがこう言ってくれるのを承知の上で、自分が謝った気がして。
ちょっと、憂鬱になった。
自分を嫌いな時は、何やってもダメだな。
借りたTシャツから出る、むき出しの脚が、畳に触れる。
この部屋は、居心地がいい。
しみじみ思ったら、つい口からもこぼれた。
「好きなだけ、いていいよ」
「夏休み、連泊させてもらっちゃおうかな」
向こう側のひざを立てて、その上に、煙草を持った腕を乗せている。
すらりと伸びる腕を、惜しげもなくさらして、楽しそうに笑う。
「それっぽっち?」
「え?」
煙草を口元に持っていくと、おいしそうに吸って、ふっと煙を吐いた。
「もっと先の話、しようよ」
「先の話?」
なんのこと?
訝っていたら、そんなあたしを見て、綺麗な顔が、にこりと笑った。
「俺と結婚しないメリットなんて、ないと思わない?」
特に、面白がる口調でもなく。
意地の悪い笑みでもなく。
まっすぐに微笑んで、そんなことを言う。