オフィス・ラブ #Friends
どうしちゃったの、堤さん。


真っ白になりながらも、頭の一部は、言われたことを冷静に確認していた。

しないメリット。

逆に言えば、するデメリット。


気は合うし、一緒にいて楽しい。

経済面の心配もないし、変なクセとか、どうしても許せないところなんかも、ない。

たぶん家族も、特に問題なさそうだし。

あたしは、甘えたがりのくせに、気が向かない時は放置しておいてほしがる、まことに勝手な性格なんだけど。

そこはさすが同じ末っ子の堤さんで、的確に察知して、いい感じに放っておいてくれる。

嫁いで恥ずかしくないくらいのことは、あたし、なんでもできるし。


すごい、確かに、ない。


フルネームが、漢字二文字になっちゃうのが、少し気になるくらい。



そんな考えと並行して、あたしの脳裏に浮かんだのは。


幸せに。


あの言葉だった。



逆だと言われるかもしれないけどね。

あたしは今、ようやく自分の進むべき道がわかった気がしたんだ。


あたしには、全力で幸せになる義務がある。

ノルマともいうべき、きつい義務が。


自己嫌悪とか、自己憐憫とか、そんなのに浸って、ぬるま湯の中で楽して、自分を甘やかす権利なんか、ない。

あたしは、何がなんでも自分をハッピーにしなきゃいけない。


それが、傷つけた人への、礼儀だと。

欺瞞でもなんでもなく、そう、思ったんだよね。


これからのあたしは、絶対に自分を粗末にしちゃ、いけないの。

だってあたしは、人を傷つけて、その上で生きてるんだもん。

彼に悪いとか、ちゃんと謝りたいとか、そんな自己満足、全部かなぐり捨てて。

この痛みや、重さ全部を抱いたまま、傷なんか治りきらないまま、幸せの可能性に、意地汚く手を伸ばすのが、あたしにできること。

そう、思ったんだよね。

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