オフィス・ラブ #Friends
「ないね」
「じゃあ、してくれる?」
うん、と答えると、堤さんは嬉しそうに笑って、あたしの頭をぎゅっと抱き寄せた。
「でも、その前にさ」
言いながら、なんとかその腕から抜け出て、堤さんの肩に手を置いて、目を合わせる。
「キスしてよ」
「残念だけど」
もう、した。
至近距離で、涼しげな顔が、ふんと笑う。
てめえ、言わせといて、それか。
ノーカンだって、自分で言ったじゃないか。
「じゃあ、いいよ」
「いいんだ」
「あたしがするから」
バカにするように笑っていた唇を、飛びついて奪うと、堤さんは一瞬、呆然としたように、されるがままになって。
その隙に、ようやく味わうことのできた、形のいい唇を、遠慮なくむさぼった。
ものすごく煙草くさいけど、これはこれで、いいかもね。
間近に、自分とは違う肌の匂いを感じる。
これだから、キスは好き。
まだ湿っている髪を、ぎゅうと引かれて、仕方なく身体を離した。
少し息を弾ませた綺麗な顔は、満足と不満の半々みたいな複雑な表情で。
ああそうか、主導権ね、失礼しました。
「元気になったようで、なによりだよ」
「でしょ」
少し片目をすがめて、嫌味に言われるのに、平気な顔して返してみる。
「生意気」
「そこが、好きなくせに」
ふんと笑い返してやると、堤さんは、降参したように苦笑しつつ、軽くうなずいて。
「大好きだよ」
自分にあきれてるみたいにそう言うと、あたしの顎に、長くて綺麗な指を添えて。
永遠に終わらないんじゃと思えるくらいの、熱くて甘い、キスをくれた。