オフィス・ラブ #Friends
「実業家っていうのかな、会社を起こしたり、つぶしたりする人」
「つぶすの…」
予告どおり、そこそこ早く帰ってきた彼の家で、今度は向こうのお父さんについて訊いてみたところ。
今は、ネットワークサービス企業の顧問やってる、と煙草をくわえて言う。
その会社は、大きくないけど、たぶん聞いたことのない人はいないというくらい有名なところで。
ビジネスマンなら、そのサービスを使ったことがない人なんて、いないんじゃないだろうか。
「親父が友達とつくったんだよ、そこ。今は下の兄貴が継いで、社長やってる」
「三男坊だけ、雇われの働きアリなんだ」
上のお兄さんは、個人の経営コンサルタントと聞いていたのでそう言うと、愉快そうに、うん、と笑った。
「親父は、雇われたことのない人で。だから俺は絶対、人に使われる面白さを追求してやろうって思ってた」
親父の生きかたも、ありだと思うけどね、と微笑んで、あたしを片腕に抱いたまま、テーブルに腕を伸ばして灰皿に煙草を押しつける。
若干引っぱられる形になったあたしは、畳に手をついて自分を支えた。
「彩は、お嬢さんなんでしょ」
「誰情報?」
新庄、と返ってきて、恵利とあの人って、意外とくだらない話してんな、と新鮮に思う。
「母方の実家が資産家ってだけ。なんでかは聞かないでね、あたしも理解してないから」
さかのぼると都銀のお偉いさんにたどり着くとか、そんな感じだったと思う。
確かに裕福で、お金に困ったことはないけど、それはあくまで親の話で。
あたしたち姉妹は、何不自由ない暮らしをさせてもらいつつ、基本的には倹約の精神を叩きこまれながら育った。
だからあたしも、自分を養えるくらいの、ちゃんとした企業に入ろうと思ったんだ。