オフィス・ラブ #Friends
「お父さんの、その会社に入ることは、考えなかったの?」
「入ったよ、それがうちの決まりで」
よそ様に迷惑をかける前に、最低一年は父親の会社で社会勉強をすること、というのが、3兄弟への君命だったらしい。
「だから俺、中途入社なんだよ」
「なるほど!」
第二新卒として、うちに入ってきたのか。
それ、新卒以上の難関じゃないか。
一年でやめるような会社を、軽率に選ぶようなタイプじゃないのにと不思議に思ってたら、そういうことだったんだ。
「知らないこと、けっこうあるねえ」
「不安になった?」
新しい煙草をくわえて、あたしをひざの間に入れてくれる。
後ろから抱きしめられながら、ライターの軽やかな音を聞いた。
「ううん」
「信用あるね」
「男の趣味、いいらしいから」
吹き出す気配と、首筋に唇の熱。
不安は、ないよ。
正直ね、もう少し待ってって言ったほうが、楽だった。
今みたいに、じんわり幸せを感じるたび、お前、何やってんのって、あたしを責める自分が、顔をのぞかせる。
でも、いいの。
楽はしないって、決めたから。
この人と一緒にいたいって気持ちに、今度こそ、ひたすら素直に向きあうの。
その想いは、とげだらけの綺麗な花みたいなもので。
慈しむたび、あたしは痛い思いをするんだけど。
この痛みをつれて、あたしは歩くの。
きっとそのうち、とげは丸くなる。