オフィス・ラブ #Friends
気が変わったら、言いなよ、と肩口で声がした。



「話くらいは聞くから。待たないけど」

「待たないんだ」



さすがの宣言に、笑う。

この人はこうやって、自分が勝手なふりをして、あたしの負担を、軽くしてくれる。

このくらいなら、甘やかされてみても、許されるだろうか。



「仕事は、続けてもいい?」

「好きなだけ、やったらいいよ」



意外にしっかりしてる胸に背中を預けながら言うと、横を向いて煙を吐きながら、うなずく気配がした。



「やめたくなったら、やめればいい」



あたしをぎゅっと抱きしめて、軽く音を立てて、耳にキスをする。

そうしたら、とその口が続けた。



「彩の一匹くらい、俺が飼ってあげる」



あたしを抱く腕が、ちょうど口の前にあったので、あたしもそれにキスをした。


やめないよ。

仕事は好きだし。

そっちの、仕事の顔を見られなくなるのは、もったいないからね。



「あたし、高いよお」



肩に頭をもたせて、そうおどけると。

楽しそうな笑い声が、弾けた。


視界のはじに、綺麗な喉が映る。



「安いより、全然マシ」



笑いを残して、少し低めた声が、耳を打つ。

この声を、あたしのものにできるんだ。


それは、なんか、いいな。

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