オフィス・ラブ #Friends

あたしの部屋に一緒に入った時。

明かりをつける間もなく、玄関で腕をつかまれてキスをされた。

首筋に。


なんで最初にそこなの、と思って、普通にキスをしようと、背伸びして露骨にうながしたら、無視された。

えっ、なんで?


なのに、頬やまぶたには、散々してくる。

なんだか腹が立って、ネクタイと背広の襟を引っつかんで唇を合わせようとしたら、その口を手でふさがれた。


非常灯の光で、かろうじて輪郭が見えるくらいだったんだけど。

綺麗な顔が、くすっと笑ったのがわかった。


もしかしたら、これは。

簡単に部屋に誘った、仕返しだ、きっと。

なんでか知らないけど、ちょっと面白くなかったんだろう。


あたしがしたいことは、しないつもりだ。

この野郎。



薄暗い、狭い玄関で、立ったまま、乱暴なくらいにかき抱かれ。

バッグは投げ捨てられ、トップスは胸の上までまくりあげられ、下着はずらされ。

その場で始まっちゃうんじゃってくらい、本気度の高いキスを、唇以外の素肌に、そこらじゅうに落としてくる。


ちょっと待てよ。

あたし、ちやほやされたいんだって。

もう少し、お姫様扱いしてくれる人かと思ってたのに。



背中に入りこんだ手が、ホックを外す。

待って、待ってよ。

どこまで行く気、こんなところで。



その手が前に回った時、あたしは思わず小さく声を上げて。

それが聞こえたのか、堤さんがぴたりと動きをとめた。


弾む息を意識しながら、なんとか壁に頼って立っていると。

急に、ぱっと明かりがついた。

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