オフィス・ラブ #Friends
見あげると、あたしの頭越しに、壁のスイッチに手を伸ばして、涼しげな顔が意地悪く笑っている。

けど、その眼には、明らかに、男の人ならではの色が浮かんでいて。

あたしは逆に、安心した。

ここまでやっといて冷静でいられたら、こっちの自尊心が無事じゃすまない。


なんとなく服を直しながら、ちょっと文句を言ってみる。



「こういうのが、趣味ですか」

「まさか」



心外だ、とでも言うように、眉を上げる。



「生意気な子に、ちょっとした挨拶」



そう微笑んで、あたしの顎に手を添える。

やっとキスをくれるのかと思ったら。


鼻筋に、唇が押しあてられた。



頭に来て、バッグを拾ってどかどかと部屋に上がり、そこも明かりをつける。

けど、追ってきた堤さんにすかさず消され、そのまま突き飛ばすように、ベッドに倒された。


これには、さすがにひとこと言ってやりたくて、起きあがろうとしたけれど。

両足を封じるように覆いかぶさられて、身動きをとれなくされる。

やっぱりこういうのが好きなんじゃん、と思っていたら、予想外に優しく頭をなでられたので、驚いた。

玄関の明かりで、逆光になった顔は、妙に嬉しそうに、楽しそうにあたしを見おろす。



「思ったとおり、元気で可愛いね」

「大森さんのおさがりでも、いいの」

「それを言ったら、僕だって誰かのおさがりだし」



そりゃそうだろうけど。

元の持ち主を知ってるかどうかで、違うじゃないか。



「なんでキスしないの」

「してほしいって言わせたいから」

「あたし、言わないよ」


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