雪見月
「…………すみません、やっぱりこういうのセクハラ? パワハラ? になるんでしょうか……」

「正しくはセクハラです」


おずおずと聞いたら即答されて、う、と俺が怯んだところで、彼女は静かに付け足した。


安心するようにという気遣いか、ほんの少しだけ口の端を上げてくれる。


大丈夫ですよ、と笑った声は完全に面白がっていた。


「セクハラだなんて訴えませんから安心してください」

「……はい」


彼女は思いの外、中々に茶目っ気がある人のようだ。


警戒を解いてくれたことに安堵する。


ほっとしたら薄氷に足をかけそうになり、何してるんですか、と呆れ声で注意された。


「うわ、すみません。ありがとうございます」

「いえ」


風は冷たく鼻をくすぐる。


マフラーをそっと、更に強く巻き付けた。


「…………」

「…………」


特に話題を思いつかないまま、黙って歩く。


「(寒い。腹減った)」

「(寒いなぁ)」


無言で歩いているが、気まずい沈黙ではないので苦痛でもない。


それから五分ほど経った後、だろうか。
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