雪見月
こちらを見据えて、ゆっくりと否定。


「いいえ」


恐ろしく真剣な表情で断言する。言葉数も少ない。


――わざとだ。


確信する。


俺の気持ちの負担を軽減するためにだろう。


彼女は実に人の機微に聡かった。


さっきも多分、意図的な行動だった。


俺に向けた、分かりにくい気遣いだった。


……聡すぎるよ。

気付くなよそんなもの。


気付かないで欲しいときに限って気付かれる。


俺が分かりやすいのかもしれないが、どうして気付かなくてもいいことにまで目を配る。


どうして、君はそんなに優しいんだ。


バレバレな自分が嫌だった。


渦巻く気持ちが分からなかった。


だけど、今更ながら。


彼女の真っ黒な澄んだ瞳に、

彼女にこれ以上甘えるなんて馬鹿な真似は、もっとしたくないと思った。
< 26 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop