雪見月
時計は意外と安くない。


もちろん安いものもあるにはあるのだが、気に入るデザインが見つからないことが多い。


「分かります。俺の友達にもあなたみたいな人がいるんですよ」


申し出に同意して申告。


大人っぽく、友人、と表現した彼女に合わせようかとも考えたが、言い慣れていないので諦める。


お。

という顔をして、輝く目で彼女が俺を見上げた。


「その人は買いそうですか?」


……よし、今度あいつにノート貸してって言われたら嫌がらずに見せてやろう。


テストが近付いてから言うし、

返すの遅いし、

そもそも本人が授業中に寝呆けていることが発端なんだし、


あまり乗り気になれなくていつも渋々貸していたけど、今回は奮発しようじゃないか。


馬鹿なことを決定しつつ、待機する彼女に続きを話す。


「参考になるかは分かりませんが」

「はい」


底抜けに明るい、能天気な笑顔が蘇る。

うるさく俺の名前を呼ぶ声も。


「今月中に五回腕時計が欲しいと思ったら買う、と言っていました」


彼女が、ぷっ、と小さく噴いて、相好を崩した。
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