雪見月
元より、話すのが得意なたちではない。


普段は聞き手に回ることが多い。


それでも、俺にできることは話題提供くらいしか思いつかなかった。


それに、結構な距離を歩くのに、ひたすら無言はさすがに辛いし。


ぐるぐる悩む俺を余所に、注意深く確認しながら、彼女が足を少し右寄りに出した。


俺のあまり自由が利かない左足では避けられなくても、彼女なら避けられるだろう鳥の糞が落ちていた。


本当に小さな小石一つでも、草でも、ささいな凹凸でも。


出来る限り真っ直ぐ、左右に移動しないように進みながら、


ゆっくりゆっくりリズムをとって、細やかな気配りで踏まないようにしてくれる。


彼女がいてくれなかったら、俺は何回こけたか分からない。


……もどかしい。


隣を歩く彼女へ、心から感謝を伝えたいのに、


言葉にしてしまったら最後、気持ちが込もらなくなりそうで。


どう言葉を尽くしても、何だかただのお礼になりそうで。


でも、何か言わなければいけない気がして、


言わないと駄目だという衝動に駆られて、



――そんな焦燥までもが陳腐になるのではないかと不安で。


混乱した俺は、無言は苦手な癖に、どうしたらいいのか分からずに黙っていた。
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