雪見月
彼女がふと、肩にかけられた俺の手のひらを見た。


「その傷では手当てするのは大変かも……」


……そういえば俺、手袋忘れたんだった。


省みると、両手は擦れて血が滲み、鋭く刺さる小さな痛みと熱を持って赤く腫れ上がっていた。


擦った跡が白線を描いて生々しい。


全然意識していなかったが、転んだときにとっさに手を着いたからだろう。


これでは少々苦戦する。


「もしよろしければ、」

「あ、いえ、さすがにそこまでしていただく訳にはいかないので」


大丈夫です、と慌てて申し出を断る。


夜は深まり続けている。


彼女にとっても、俺にとっても、早く帰宅してもらった方がいい。


立場が逆だったら良かったんだけど、俺に手を貸してくれたせいで、彼女に何かあったら嫌すぎる。
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