雪見月
「出過ぎた真似をしました。すみません」

「いいえ。こちらこそせっかくのご厚意を……」


堅苦しい敬語を何とか捻り出しながら、それでも不格好なそれを崩さない俺に。


おかしそうに眉を上げて、彼女はくす、と笑った。


「高校生だと思ったら、勝手ながら親近感が湧いて」

「……えーっと」


申し出てくれたのは、俺が高校生だと思って、親近感が湧いたから?


ん? とまとめた結果に心中首をひねる。


緊張を取り払ってくれたのはありがたい。


ありがたいが、先程俺は、高校生です、とは言わなかったはずだ。


何故ばれた。


「高校生ですよね?」

「え、あ、はい」


念押しされる。


俺の顔に疑問と驚愕を読み取ったのか、彼女が軽やかな声をたてて笑った。


「制服です」

「…なるほど」


種明かしされれば、何てことはなくて。


だからさっき、パワハラじゃなくてセクハラに訂正されたのか。と間抜けな思考回路。


相当びっくりしてるんだな俺よ。


自分を分析しつつ、恥ずかしさで赤くなった顔の火照りが冷めるのを待つ。


そろそろいいかな、なんて顔を上げれば、


「……あ。着きました」


もう、アパートの前だった。
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