雪見月
私は、と。

彼女がそっと、空気に言葉を溶かす。


あんな、さりげなくかっこ良く、人助けができる人になりたかった。


「……はい」


首肯する。




――胸で疼く思い出が、鍵をしたままで錆びついた古い蓋をこじ開けた。




溢れよとばかりに、きつく詰め込んだ記憶全てが奔流となっていくけれど。


けれどもう、随分前に、その錠前に合う鍵は失くしたはずなのに。


確か俺は、
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