雪見月
「『青ですよ』って」


そう、

確か俺がそう言ったのは、白の、長いマフラーをした、


「『信号、青ですよ』って私の肩をそっと叩いて、私が気付いて顔上げるまで待っててくださって」


ボブの黒髪。


「服見たら学ランで。この辺、学ランの高校ないから、受験生かなって」


優しい心遣いなんて、どこにでもある、ただの日常ですけど、と彼女は綺麗に笑った。


「でも、それだけで私にとっては充分だったんです」




あの日の奔流が止まらない。




忘れたくないと叫んでいる。


叫び声をあげて唸っている。


『きっと会えないから』。


そんな、たった十文字だけの理由で堰き止めていたのに、

やっと奥に仕舞い込んだのに、


必死に抱き留めた思いは二年越しだったなんて、こんな偶然があるかよ。
< 51 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop