雪見月
沈黙していたら、勘違いされてしまったらしい。


彼女は慌てて、すみません、と謝った。


「え?」

「いえ、あの、こんな二年も前のこと、覚えてないの当然ですよね、むしろ私が変っていうか、」


自嘲的に笑う彼女を見ていられなくて。


「覚えてます」


俺は遮るように口を開いた。


「え……?」


そうだ。


知っている。

覚えている。


寒いのに、手袋もしないで必死にページをめくっていた、


霜焼けになるくらい真っ赤なのに、手に積もる雪も振り払わないでいた、


時折祈るように、クリーム色の校舎があるだろう方角を見つめていた、



泣きそうな君のこと。
< 52 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop