雪見月
忘れられなかったのは俺も同じ。


でなければあんなお礼を買うものか。


ずっとずっと、執意の中にいた。


たった数時間一緒にいただけのあなたを探してた。


……忘れたくなんて、なかった。


こっちこそ引かれても仕方のない行いだ。


「すみません、引きますか」

「いいえ」


聞くと彼女は首を振ってくれたけど、少なくとも私は、と足され撃沈。


正論だけどひどいですよ、とむくれれば、


ふふ、と微笑んだ彼女がそっと、潤んだ目を隠すように瞬きを繰り返していて。


何かしただろうかと不安になる。


「どうしました?」


まだ触れられない。


流れそうな涙を拭えない。


黙る彼女を尻目に当然何故かと自問して、ああそうか、と答えを見つける。


まだ言ってなかった。


「付き合いましょうか、俺たち」

「はい……!」


泣き笑いをした彼女は、一筋、嬉しそうに雫をこぼした。
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