雪見月
逃げるように渡した袋をかざす。


「あのこれ、開けていいですか!」


わたわたと了承を迫られては頷くしかない。


「ど、どうぞ……大した物じゃないですが」


迫力があって驚いた。


そんなにあの発言から逃げたかったのか、と少し不本意だ。


彼女は慎重に、袋を留めている金のシールを剥がした。


「わあ、可愛いですね!」


はしゃいでくれて何より。

買った甲斐があったというものだ。


「でもこれ、買うの大変だったんじゃ……? 女性ばかりが行くお店ですよね」


鋭い指摘に思わずジト目を向けた。


「……あなたはどうして、いつもそう聡いんですかね……」

「えっと」


困惑顔で何か言おうとした彼女を押し留める。


「いいんです。俺があなたに渡したかっただけなので、大変とかそんなことどうでも」


恥ずかしいので饒舌になった。


「あなたが喜んでくれれば、それで構いません」
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