雪見月
「嫌ではありませんが、俺はあと三十分くらいはバイトですよ。日を改めた方がよくはありませんか?」


俺の提案に彼女はのらなかった。


「じゃあ、店内にカウンターありますし、何か食べて待ってたい、です」


不安なのかこちらを心細く見上げているが、それは狡いだろ。


そんな目をされてはますます断れない。いや断らないけどさ。


じゃあ今日の帰りに、と決まったところで。


「すみません……暇ですね」


俺は仕事だからいいけど、彼女は大分時間を持て余す。


でもバイトは真面目にやりたい、……ええと。


意外にも助け舟をくれたのは彼女だった。


腕を上げて鞄を持ち上げ、ストラップを揺らしてみせる。


「大丈夫ですよ。もらったこれがあるし、何か食べていれば三十分くらいすぐです」


心配ご無用です! とおどけて力こぶを作る真似をして、朗らかに笑う。
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