雪見月
ああもう、いじらしい。


ほんと、


「そういう可愛いこと言うの狡いよ」


これがあるしって何。


「……急なタメ口の方がずるいですよ…」


ゆでだこ色になった彼女に笑いかける。


「えっと、ごめんね?」


囁くと、むむむ、と眉根を寄せつつ唸って、更にその顔色を濃くして。


「おやつ買ってきます!」


脱兎のごとく逃げだした。


その逃げ足の速さに、彼女が慣れていない感じが分かってしまう。


いつか、二人ともタメ口で話せるようになるのが最初の目標かな、と思いながら見ていたら。


自動ドアをくぐってから、


怒ったくせに、一番俺と距離が近くて見通しがいい席を瞬時に確保して。


急いでおやつを買ってきて、小さく一口食べてみてから俺にそっと手を振る君が。


「……くそ」


どうしようもなく、可愛かった。
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