雪見月
手に単語帳を広げたまま、少しふらつきながらもなるべく真っ直ぐ歩く。


人波に沿って進んでいると、足元にたくさんの靴が見えた。


流れが止まったのに顔を上げる。


……ああ、信号か。引っかかってしまった。


信号待ちの喧騒は、どこか、私の焦りに似ている気がした。


二枚めくったらちらちら信号機を見上げて確認する。


まだ赤、いや青がやっと明滅した。

よし。


すぐに視線を戻して、かじかんだ指を私は無理矢理動かした。


えっと、これは覚えた、これも大丈夫、でこれは不安で……r、ここはr。よしもう一度。


ああまた信号。

……信号多いなぁ。


小刻みにやってくる信号の度に止まってぎりぎりまで単語帳を繰りながら、焦った心に蓋をした。


大丈夫、大丈夫。


薄っぺらい根拠なんて、今まで頑張ってきた、それだけでいいから。
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