雪見月
慌ただしく口を閉じる。


飲み込んだ溜め息で胸がどかどかと痛かった。


……うるさい、心臓。お願いだからそんな音をたてないで。


苦しい呼吸にやっと小さく冷気を吸い込んでみても、どこか楽になる訳もなく。


萎縮する肺は私の緊張を高めてしまう。



強くクラクションが鳴った。


雑踏がざらりと不快に侵食してきて、私は思わず単語帳をめくる手を止めた。


駄目、やらないと。勉強しないと、私は――


西高に入れない。


それは最早恐怖に近かった。


先生に止められた、

親にも無理を言った、

模試の結果だって良くなくて余裕なんて全然。


でも行きたくて。こんなにも憧れていて。


不安定な私に笑って、そんなことないと何度も否定してきたのに、


頭良いでしょ大丈夫だよ、


なんて役に立たない軽い気持ちを寄越した友達の声がふいに蘇って、私の心を乱した。
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