雪見月
彼に、雪の日の魔法使いに恋をした。


静かに差し出された温もりが知らず知らずのうちに私の心を射止めたことなんて、きっと彼は全く意図していないだろう。


……ささやかな気遣いに落ちるなんて誰が思うものか。


私だって、自分がこんなにちょろいとは、と驚いたけど、人生変えられたら仕方ないじゃないか。


あのままだったら悲惨なことになるのは分かり切ったことだから余計に。


「はあ……」


深く溜め息を吐いた。




叶わない思いだと知っている。


届けられない願いだと、知っている。


「名前、何て言うのかなー……」


名前も言わずに私を落とした魔法使いさん、

雪が似合う魔法使いさん、


私はきっと、冬がとても好きになる。


そして多分、


真っ白な道路に差す影にあなたを思い出す。
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