雪見月
「頑張ろう」


脳裏に走る背中が蘇る。


本来は余裕があったろうに、移動時間を削ってまでカイロを渡してくれた彼。


今はただ、その面影だけを追いかけていよう。


重なった偶然にこれ以上何も望まない。


誰かに頼ることもしない。


機会は自分で掴まなくては居心地が悪い。


お膳立てされた舞台の上で踊る、虚しい道化になるつもりはないのだから。


例え頼って彼に会えても、何が嬉しいんだ。


友達の紹介だから相手をしてもらって、告白したら断れないことに付け込んで、


そんなことになるくらいなら、出会いのきっかけは誰にも譲らない。


「思い出の中でなら、魔法使いに恋してもいい、よね」


呟きは私を納得させてそっと消えた。


窓の外では相変わらず雪が降っている。
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