雪見月
手早く会計を済ませてくれた店員さんに心中感謝して、自動ドアが開くのももどかしく走り出す。


もたついた足を無理矢理前進させながら、人波をかいくぐる。


「はあ……っ」


私の手は小さくて、あまりに多くがこぼれ落ちて、目の前の人を助けることで精一杯。


それが偽善なのは分かってる。


一人だけではどうにもならないことだって理解しているつもりだ。


今時御伽噺が有り得るなんて、現実に夢見てもいない。


それでも別に良かった。


理由は後付けで構わなかった。


「もっと、速く……!」


走らなくてはいけないと思ったのは私自身の心なのだから。
< 72 / 75 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop