となりの専務さん
「……そんなわけで、学生時代の貯金とかは全て家族に渡してあるので、今は本当にお金がないんです……。
若干の生活費はもちろんありますが、それもギリギリ分しか持っていなくて……お願いします、初任給が出るまで修理費は待っててくれませんか⁉︎ その間、私にできることならなんでもしますから‼︎」

言いながら、私はもう一度頭を下げた。
なんて都合のいいお願いなんだろうとは百も承知だった。でも、本当にお金がない。卒業式の袴のレンタル代や謝恩会の参加費がないのはもちろんのこと、生活費もギリギリで、実家にも頼れない。友だちにお金のことで頼るのもできれば嫌だ……。私は土下座して必死にお願いした。

すると。


「俺は別に構わないよ」

響さんは、意外にもすんなり承諾してくれた。


「ほ、本当ですか……?」

私がおそるおそる顔を上げて響さんを見つめると、響さんは「うん」と答えた。


相変わらず無表情で抑揚のない話し方で……だけど確かにそう言ってくれた。



「あ、ありがとうございます!」

私は何度も何度も響さんにお礼を言った。そして、「先ほども宣言した通り、壁が直るまでの間、私にできることはなんでもします!」と私が言うと。


「……ていうか、君はそれでいいわけ?」

「え?」

「君の留守中、俺がこの壁から君の部屋に侵入して……エッチなことしにいくかもしれないよ」

「エ、エッチですか?」

ど、どうしよう……。やっぱり響さんも男性ということでしょうか……。で、でも……。


「ま、万が一そうなったとしても、元はと言えば私が悪いので……」

「変わった子だね、君は」

響さんはそう言って小さく笑うと、「まぁ、そんなことはしないけどね」と付け足した。



「じゃ、じゃあとりあえず、なにか布とか使ってせめて穴を隠して……」

私がそう言いながら立ち上がり、いったん響さんに背を向けて自分の部屋の方に向き直ると……。


「ねぇ」

響さんが私の背中越しに声をかけた。
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