となりの専務さん
食事を終え、私たちは店を出た。
帰る場所は同じなので、そのままいっしょにアパートの方まで向かおうとした、その時。


「……涼ちゃん?」

うしろから聞こえた女の人の声に、専務が「え?」と振り向く。専務の下の名前は涼太さんだから、誰かが専務のことを読んだのかな?

はっ、まさか会社の人じゃ⁉︎ ヤバい、私は隠れた方が……?
……いや、会社の人は専務のことを『涼ちゃん』とは呼ばないか。


「……葉津希」

振り返った専務は、そこにいたキレイな女の人を見て、少し驚いたように声をもらした。

葉津季さん……と言うらしいその女性は、キレイであり、それでいてとてもかわいい雰囲気の方だった。
白のワントーンで統一された、清潔感と高級感のあるブラウスとスカートを着ていて、胸の少し下辺りまであるふんわりとした茶髪がさらさらと春風に揺れている。
年は……私より少し上かな?
まつ毛が長い。目が大きい。唇の色、キレイ。その唇はふっくらしていて、女性らしい。
もともとキレイな人なのはわかるけど、すごくかわいいメイクだと思った。


「ほんとに涼ちゃんだぁ。久しぶり〜」

そう言いながら、葉津季さん、はうれしそうにこちらへ駆け寄ってくる。


(わあ……)

葉津季さんも専務が隣同士に並ぶと、すごく絵になるというか……誰がどこからどう見ても、美男美女のお似合いカップルに見えると思う。
そのくらい、華やかで素敵な雰囲気があった。


……と、同時に、さっきまで専務のとなりで『なんだかデートみたい』なんて浮かれていた自分がバカだと思った。
……私と専務は全然釣り合ってない。わかりきっていたはずなのに、葉津季さんと専務がこうして並んでいるの見ると、ますますそう感じた。



ていうか……ふたりはどういう関係なんですか?



「涼ちゃん、こちらの方は?」

専務と葉津季さんの関係に疑問を感じながらもそれを聞けないでいると、葉津季さんが私の方を見ながら専務にそう尋ねた。
すると専務は。


「今住んでるアパートの隣人さん」

と答えた。


……専務はなにも間違ったことを言っていないし、むしろちゃんと私のことを紹介してくれたのに、私、なんで胸がちくん、と痛んだんだろう。

……私、自分と専務は少し特別な関係だ、なんて勝手に思ってしまっていたのかもしれない。実際は、私がアパートの壁に穴を開けて迷惑をかけているっていう話なのに。

……そういう勘違いがあったから、自分以上に専務と親しげな葉津季さんを見て胸が痛んだのかも……勝手な話だけど。


でも専務は続けて、

「仲良くてさ、今もいっしょに朝ご飯食べてたとこ」

と話してくれた。
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