となりの専務さん
アパートに戻ってしばらくしても、お昼を過ぎても、専務は帰ってこなかった。

専務が帰ってこないまま時間が経てば経つほど、不安でドキドキしてしまう。私にそんな風に思われても、専務は困るだろうけど。



夕方になって、そろそろ夕飯の買いものに行かなきゃな……と思った。
専務の分…….作っておいてあげたいけど、この様子だと、外で食べてくるかな。


……ハヅキさんといっしょに……。



そんなことを考えていた、その時。


ーーガチャ。

「!」

専務の部屋の玄関が開いた音が聞こえた。

帰ってきたんだ!


数秒待って、専務が壁の向こうにいる気配を確認して。


「お、お帰りなさい!」

私はなるべく明るく、カーテンで仕切ってある壁の向こうにいる専務に話しかけた。


「ただいま」

普通に返事してくれた専務に、少し安心した。


「あ、あの、カーテン開けてもいいですか?」

なんとなく専務の顔が見たくて。顔を見て直接話したくて。
私の問いに、専務は「いいよ」と答えてくれた。


私は画びょうを取って、カーテンを外した。


目が合うと、専務はもう一度「ただいま」と言ってくれた。

「……お帰りなさい」

お帰りなさい、なんてちょっと調子乗ってるかな? 彼女ぶってるみたい?
でも、専務が帰ってきてくれて本当に安心したんだ。


「お、遅かったんですね」

「うん、ちょっと実家帰ってたから」

「え?」

家出してる専務から『実家』というワードが出てくると思わず、驚いてしまった。


「実家って……さっきの葉津季さん……といっしょに、ですか?」

私が尋ねると。


「うん」

専務は当たり前のようにそう答えた。



……おかしいな。専務の表情、最近は前よりわかるようになった気がしてたのに。

今は、全然わからないや。
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