となりの専務さん
そして、入社式の前日の夜に、私はこっちのアパートに戻ってきた。
部屋で荷物の整理を軽く済ませると、安物ではあるけれど迷惑料という名のお土産を響さんに買ってきたので、それを渡しに隣の部屋に向かった。
玄関のチャイムを押すと、部屋から出てきた響さんから「壁から入ってくればいいのに」と言われ、更にはクスッと笑われてしまった。いつも無表情な響さんの初めての笑みを、こんなところで見た。
玄関で手渡した私のお土産の入った袋の中を見て、響さんは。
「これなに? おまんじゅう?」
「あ、信玄餅です」
「長野に行ってきたのに、なんで山梨のお土産?」
「すっ、すみません! 実はギリギリまで実家で家事をしたり父の看病などしていたら長野でお土産をゆっくり買う時間がなく、結局サービスエリアで……!
あ、で、でも、一度食べたことあるんですが、おいしいんですよ。大学の友だちに買っていった時も、みんなに好評でしたので、その」
「そうなんだ、ありがとう。食べたことないし、うれしいよ。あ、お茶淹れるよ。一緒に食べよう」
「え!!? いえいえ! そんなご迷惑おかけするわけには……!!」
私は両手を顔の前でブンブン振ってそう言うけど……。
「なんでも言うこと聞いてくれるんでし
ょ?」
「え?」
「ひとり暮らししてると、時々誰かと話したくならない? 俺だけかな?
あ、男の部屋に入るのは危険って思ってる? いいじゃん、身の危険を感じたら、壁の穴からすぐに自分の部屋に避難すれば」
そう言って響さんは、さっきみたいにまた、クスっと笑った。
……壁の穴、もしかして響さんにとって少しツボに入ってますか……?
さ、入って、と響さんは私を部屋の中へと促す。
ど、どうしよう……と私は戸惑うけど。
迷っていると響さんに背中を押され、私はあれよあれよという間に響さんのお部屋の中へと入ってしまった。
……私、完全に流されやすい。やっぱり私も保証人にはならない方がいいタイプだろうな……。
……でも、部屋に入ってお茶を飲んでる最中に響さんが身の危険を感じるような行動をすることは本当にないと思う……。
二週間留守してたけど、響さんが私の部屋に入った形跡はまったくなかったから。カーテンがはずれた様子もなかったし。悪い人だったら、部屋に入ってなにかすると思うんだよね。
人を信用しすぎと言われたとしても……やっぱり、響さんのことはいい人だと思うんだよね。
部屋で荷物の整理を軽く済ませると、安物ではあるけれど迷惑料という名のお土産を響さんに買ってきたので、それを渡しに隣の部屋に向かった。
玄関のチャイムを押すと、部屋から出てきた響さんから「壁から入ってくればいいのに」と言われ、更にはクスッと笑われてしまった。いつも無表情な響さんの初めての笑みを、こんなところで見た。
玄関で手渡した私のお土産の入った袋の中を見て、響さんは。
「これなに? おまんじゅう?」
「あ、信玄餅です」
「長野に行ってきたのに、なんで山梨のお土産?」
「すっ、すみません! 実はギリギリまで実家で家事をしたり父の看病などしていたら長野でお土産をゆっくり買う時間がなく、結局サービスエリアで……!
あ、で、でも、一度食べたことあるんですが、おいしいんですよ。大学の友だちに買っていった時も、みんなに好評でしたので、その」
「そうなんだ、ありがとう。食べたことないし、うれしいよ。あ、お茶淹れるよ。一緒に食べよう」
「え!!? いえいえ! そんなご迷惑おかけするわけには……!!」
私は両手を顔の前でブンブン振ってそう言うけど……。
「なんでも言うこと聞いてくれるんでし
ょ?」
「え?」
「ひとり暮らししてると、時々誰かと話したくならない? 俺だけかな?
あ、男の部屋に入るのは危険って思ってる? いいじゃん、身の危険を感じたら、壁の穴からすぐに自分の部屋に避難すれば」
そう言って響さんは、さっきみたいにまた、クスっと笑った。
……壁の穴、もしかして響さんにとって少しツボに入ってますか……?
さ、入って、と響さんは私を部屋の中へと促す。
ど、どうしよう……と私は戸惑うけど。
迷っていると響さんに背中を押され、私はあれよあれよという間に響さんのお部屋の中へと入ってしまった。
……私、完全に流されやすい。やっぱり私も保証人にはならない方がいいタイプだろうな……。
……でも、部屋に入ってお茶を飲んでる最中に響さんが身の危険を感じるような行動をすることは本当にないと思う……。
二週間留守してたけど、響さんが私の部屋に入った形跡はまったくなかったから。カーテンがはずれた様子もなかったし。悪い人だったら、部屋に入ってなにかすると思うんだよね。
人を信用しすぎと言われたとしても……やっぱり、響さんのことはいい人だと思うんだよね。