となりの専務さん
響さんは、部屋の真ん中に置かれた丸テーブルの上に信玄餅を置くと、「そこ座って」と、テーブルの前を指差してそう言ってくれた。
お言葉に甘えて腰をおろすと、ふたり分のお茶も用意してくれて、マグカップに入った温かいお茶をいただいた。
「へぇ〜、おいしいね」
響さんは信玄餅を食べながらそう言う。よかった、お口に合ったみたいだ。
「響さんは、いつもこのくらいの時間にはご帰宅されてるんですか?」
ふと響さんの部屋の壁かけ時計を見ると、時刻はちょうど二十時頃だった。
「もう少し遅い時の方が多いかな。家に帰れないくらいに忙しい時もあるしね」
「なんのお仕事をされてるんですか?」
「普通の会社員」
「そうですか」
どんな会社なのか聞きたい気もしたけど、知り合ったばかりの方(しかもすごい迷惑かけてる……)のことにあまり踏み入っちゃいけない気もして、それ以上はなにも聞かなかった。
「石川さんは何日から仕事始まるの?」
信玄餅を食べ終え、一息ついたところで響さんにそう聞かれた。
「明日です。明日入社式なんです」
「へぇ。そういえば、街で初めて会った時、化粧品の会社の前にいたよね。もしかしてあそこに勤めるの?」
「あ、そうなんですよ。卒業式の帰りにふらっと寄ってみました」
「やっぱそうなんだ。すごいじゃん、あそこ、大きな会社じゃない? 就職の競争率とか高かったんじゃない?」
「はは、そうですね」
響さんは、無表情でわかりづらいのもあり最初こそ緊張したけど、話してみると、案外接しやすい方だなぁと思う。
そんなことを感じながら話していたところで、私はふと、あることを思い出した。
「そういえば、就活中にそこの会社の就職説明会に行った時に、そこで働く先輩たちが妙なウワサ話をしてるの、たまたま聞いちゃったんです」
「妙な?」
「はい。専務のせいで仕事辞める女性社員が何人もいる、みたいな。嫌ですよね、よっぽど性格悪い人なんでしょうか」
お言葉に甘えて腰をおろすと、ふたり分のお茶も用意してくれて、マグカップに入った温かいお茶をいただいた。
「へぇ〜、おいしいね」
響さんは信玄餅を食べながらそう言う。よかった、お口に合ったみたいだ。
「響さんは、いつもこのくらいの時間にはご帰宅されてるんですか?」
ふと響さんの部屋の壁かけ時計を見ると、時刻はちょうど二十時頃だった。
「もう少し遅い時の方が多いかな。家に帰れないくらいに忙しい時もあるしね」
「なんのお仕事をされてるんですか?」
「普通の会社員」
「そうですか」
どんな会社なのか聞きたい気もしたけど、知り合ったばかりの方(しかもすごい迷惑かけてる……)のことにあまり踏み入っちゃいけない気もして、それ以上はなにも聞かなかった。
「石川さんは何日から仕事始まるの?」
信玄餅を食べ終え、一息ついたところで響さんにそう聞かれた。
「明日です。明日入社式なんです」
「へぇ。そういえば、街で初めて会った時、化粧品の会社の前にいたよね。もしかしてあそこに勤めるの?」
「あ、そうなんですよ。卒業式の帰りにふらっと寄ってみました」
「やっぱそうなんだ。すごいじゃん、あそこ、大きな会社じゃない? 就職の競争率とか高かったんじゃない?」
「はは、そうですね」
響さんは、無表情でわかりづらいのもあり最初こそ緊張したけど、話してみると、案外接しやすい方だなぁと思う。
そんなことを感じながら話していたところで、私はふと、あることを思い出した。
「そういえば、就活中にそこの会社の就職説明会に行った時に、そこで働く先輩たちが妙なウワサ話をしてるの、たまたま聞いちゃったんです」
「妙な?」
「はい。専務のせいで仕事辞める女性社員が何人もいる、みたいな。嫌ですよね、よっぽど性格悪い人なんでしょうか」