となりの専務さん
「初めて会った時って、私、一円のことで専務にお説教しちゃってたじゃないですか……」

「うん。だからなんかおもしろい子だなと思った。そんな子、今まで周りにいなかったし」

「……まぁ、いないでしょうね……そんなに一円にこだわる女なんて専務の身近には……」

「あと、一円を拾ってくれた時の笑顔がかわいかったから」

「え……」

ドキ、とまた心臓が高鳴った。

笑顔。大樹くんの褒めてくれた……笑顔が?


「まあ、その時は、君と別れてから『かわいい子だったな』くらいにしか思わなかったけど。でもその後、君がアパートの隣人だって知って、すごく驚いたし、でもそれ以上にうれしかった。こんなこと言うのは恥ずかしいけど、なんか運命すら感じたよ」

「お、驚いたりうれしかったようには見えませんでしたよ……?」

「感情が表情に出にくいらしいのがここ数年の悩み」

悩み……! その無表情は専務のお悩みだったのですね! しかも数年……。


そして……。


「壁壊されたのはびっくりしたけど、必死に謝るとことか、家庭のことで大変なのに前向きにがんばってるとことかも、なんかいいなって思った。だからつい意地悪も言ったし、俺が君の会社の専務だよってことも入社式まで黙っておいた。それから…….結婚してほしいって言ったりもしたね。初めて会った日に結婚してほしいって言ったのは、君を困らせてみたいっていう意地悪も含まれていたけど」

「……っ」

そう、だったの……? ウソ、みたい……。


でも、落ち込んでた私にオシャレをさせてくれたりメイクをしてくれたのは、私のことが好きだったからじゃないらしい。
あれはあくまで、“落ち込んでる女の子をオシャレやメイクで元気にさせたかった”とのこと。
専務の、そういう化粧品を愛してる感じ、やっぱりすごくいいなって思う。
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