となりの専務さん
「……さて」

小さく息をはいて、専務は続ける。


「両思いだったみたいだね、俺ら」

専務は淡々と、無表情でそう語る。


「うう……ドキドキしてるのは私だけですか?」

すると専務は、「そんなことないよ」と、掴んだままの私の右手を、専務の胸へともっていった。

あ……専務もドキドキしてる……。


「信じてくれた?」

またしても意地悪げに専務がそう言って。


私は。

コクン、と静かに頷いた。



……ウソみたい。フラれるつもりで告白したのなか、まさか、こんなことになるなんて……。


幸せすぎて私がポーっとしていると、専務の右手がいったん私の手から離れ、そして、今度は専務の両手が私の顔を包み込むように、頬に触れた。


「専……?」

専務の唇が、私の唇に近づいてくる。

キス、されるんだーー……。

びっくりしたけど、嫌ではない。


……嫌ではないんだけど……。


「ま、待ってくださいっ!」

私は、両手で専務の胸元を押し、キスを拒んだ。


「ん? 嫌だった?」

「い、いえ、嫌だなんてとんでもないですっ……! た、ただ心の準備がまだ……!」

「ああ、そうか。キスもしたことないんだったね。マシュマロとキスの判別もできないくらいだもんね」

「うぐ……意地悪です」

「はは」

じゃあ、キスはまた今度ね。そう言って専務は私から離れた。

ふう、よかった。今この状況で突然キスなんてされたら、ドキドキしすぎて身がもちません。


……と思っていたのに。



「なんてね」

「え? んっ……」

専務の声に顔を上げた瞬間、専務は私の体を引き寄せ、キスを、されたーー……。



ゆっくりと、唇が離れると。



「言ったでしょ。好きな子には意地悪したくなるって」


意地の悪い笑顔でそう言いながら、専務は、もう一度私に顔を近づけると、ペロ……っと、私の唇の端を舐めた。
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