となりの専務さん
星空の事情
「お父さんが運ばれたって、どういうことなの? もしもしお姉ちゃん? え、手術⁉︎ あっ……」

「どうしたの?」

「向こうの電波が悪いのか、電話が切れてしまって……」

でも確かに、お父さんが倒れたってお姉ちゃん言ってた……。手術って単語も聞こえた。


ど、どうしよう……。お父さんまた心労がたたっちゃったのかな……万が一のことがあったら……私は……。



「……長野行きのバス、まだ出てるよね?」

専務が突然切り出した。

いつもの無表情……じゃなくて、真剣な表情だった。


「え、あ、はい……バスはまだ……」


すると専務は、突然私の右手をつかんで立ち上がり、同時に私も立ち上がらせた。

そして。

「行くよ。俺もいっしょに行くから」

私の手をつかむ専務の手は、とても力強くて。


「……はいっ……」

私は涙をこらえるのに必死だった。




バスに乗り込んでからも、私は頭の中がぐちゃぐちゃで、ろくに言葉を発することができなかった。

今は十九時半だから、二十二時半頃には長野に着くな……と頭の中でぼんやりと確認したくらいで。

でも、専務がとなりでずっと私の手を握っててくれて。
専務も口数は少なかったけど、時折「大丈夫だよ」と声をかけてくれて。

夜のこの時間、明日は土曜日とは言え、車内に乗客は少なくて、夜の薄暗い消灯も相まってか、どこか寂しい感じがする。
きっとひとりだったら、どんどん気分が沈んでいったと思う。

でも、専務がいてくれる。


だけど私には、お父さん、どうか無事でいてと、ただ祈るだけしかできなかった……。
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