となりの専務さん
……それはちがう。


専務のことが本当に好きなら




私は





彼の選択肢をひとつ、“減らす”べきだ。


それは、私にしかできないこと。




『足元にお気をつけください』

アナウンスを聞きながら、私と専務はふたりきりだったロープウェイをあとにした。
ロープウェイで降りてくる最中、結局、会話はそれきりほとんどなかった。

気まずい雰囲気のまま、私たちは来た道を戻る。

手も、つながない。



「バス、何時?」

道路に出た時、専務が私にそう尋ねる。


「……十五分後、です」

「そう」

バス停に向かって歩きながら、私たちの間には再び沈黙が訪れる。


……でも、時間が経てば経つほど、私の中の“答え”はより明確になってきて。
そもそも、さっき発した言葉も、適当な気持ちなんかじゃもちろんなかった。

だから、私はとなりを歩く専務にもう一度、言った。


「……別れましょう」

やっぱり、声が震えそうになる。でも、今度はがんばって抑えた。


少しの間のあと、専務は答えた。

「……正直、君の本心とは思えないんだよね」

「……」

「そんな泣きそうな顔で言われたってさ」

私は、自分の目が潤んでいることにようやく気づいた。
…….泣かずにちゃんと言わなきゃいけなかったのに。


専務は続ける。

「……葉津季の言ったことなら、ほんとに気にしなくていい。もともと父とはオリが合わなかったし、あの会社じゃなくたって仕事はできるし」

専務は淡々とそう答える。


……けど。


「……そんなこと、思ってないでしょう?」

私は専務に反論してしまった。
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