となりの専務さん
私は、どんな顔をすればいいんだろう?


泣く、のは専務の気持ちに失礼な気がした。

怒る? 困る? それは全然ちがう。


だから私は



「はい……っ」


涙を流しながら、精いっぱい笑った。



そんな私に、専務は。


「……ムリしないでね。元気で。……“石川さん”」

専務の、私に対する呼び方で、私たちの関係がここで終わったことを理解した。



その後、私は自分の部屋に戻ってーー一晩中、ずっと泣いていた。

泣き声が壁越しに専務に聞かれないよう、声を押し殺して……。




月曜日。

私はいつものように出社して、いつものように仕事して。

なにごともなかったように振る舞って。



ただ、書類を提出するためにべつの部署へ向かっていると、廊下で専務とすれ違った。

ふたりきりの廊下だった。



「……お疲れ様です」

「……お疲れ様」

私たちはそれだけあいさつを交わすと、それ以上はなにも言わず、ただすれちがうのみだった。



……あの日、専務の部屋で別れて以降、

私たちは


あいさつ以外の言葉を交わさないようになり、



そのまま





二年の月日が流れました。
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