となりの専務さん
二年後の事情
……それは、突然のできごとでした。


「この壺に、そんな価値があったとは……」

この言葉を、私はこれから一生、お姉ちゃんとともに使い続けることになるのでした。




「これ本物? 本物だよね?」

「本物だよ。ついでにあの壺も本物」

そう言ってお姉ちゃんは私の頭を何度も何度も撫でた。

今、私の両手には、借入金返済完了明細票……


つまり、借金をすべて返済したという証明書があった。



本来なら、あと数年は返済まで時間がかかるはずだった。


でも、昨年、おじいちゃんおばあちゃんの家にあった壺が、思いのほか高額だったことが判明した。

本当にたまたまだった。お姉ちゃんがたまたま観ていたその番組で有名な陶芸家の人の特集をやっていて、その陶芸家の人のサインがその壺に入っていたことが判明したのだった。

おじいちゃんおばあちゃんも、その壺がそんなに高価なものだとは知らなかったらしい。話を聞くと、おじいちゃんが生まれる前からずっと家にあったものらしいから、いつからあるものなのかとか、詳しいことはわからなかったらしいけど。

でも言い換えれば、おじいちゃんにもおばあちゃんにも思い入れのあるわけではない壺ということで、すぐに売れる場所を探して、換金の手続きなどして、お金はもちろん返済に充てた。


その場で完済になるほどの額ではなかったけど、その数ヶ月後、私のお給料とボーナスを合わせて、無事に完済に至った。
壺がなければ完済までまだまだ時間がかかるはずだった。
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