となりの専務さん
そう決心して、私は駅の方へと歩いていった。ただ、駅はいったん通り過ぎ、ある場所へと向かった。


「来月から、ここで働くんだ……」

そこに着いた私は、足を止め、空を見上げた。

最上階がよく見えないほど高くて、近代的なビルーー化粧品メーカー『コスメチア』。化粧品の国内シェアトップで、世界的にも有名な企業。CMはいつも話題になるし、健康食品や美容医療などの事業も展開している。


就活、苦労した甲斐があった。こんな大企業で働けるなんて。ここで働けば、きっと……。


なんて、つい実感を得るために寄り道しちゃったけど、いつまでも道端で突っ立っているわけにもいかない。不審者に間違えられて、内定取り消し、なんてことになったらとんでもない。

私は来た道を戻ろうと振り返った。その瞬間、誰かとぶつかってしまった。
チャリンチャリンという音が辺りに響いた。ぶつかった人が小銭を落としてしまったみたいだ。


「す、すみません!」

私は慌ててしゃがみ込み、その人と一緒に、散らばったお金を拾い始めた。
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