となりの専務さん
「あっ、あっちにも転がってますね!」

少し離れた場所まで硬貨を拾いに行こうと私が立ち上がると、その人は、
「あ、別にいいですよ、大した金額じゃないし適当で」
と言う。


「なに言ってるんですか!」

私は思わず、声を荒げてしまった。


「一円に笑うものは、一円に泣くんですよ‼︎」

そう言って硬貨を拾いに行き、男性に渡した。


「本当にすみませんでした。全部拾えたはずです!」

「あ、どうも」

その男性は、古ぼけたブラウンのジャンパーを着て、髪はボサボサだった。前髪が長く目が隠れていて表情はよく見えなかった。ただ、前髪の間から見えた肌が、とてもキレイな人だなと感じた。
二十代後半かな。


「本当に失礼しました。では」

私は頭を下げて、その場を後にする。

はぁ。人にぶつかっちゃうなんて。ダメだなぁ、私。しっかりしなきゃ。
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