となりの専務さん
「どうかしましたか?」

自分のデスクに戻る前に、係長のデスクに近づき、そう聞いてみると。


「ん〜、あのね、ほかの部から送ってもらったこのファイルを開きたいんだけど、うまく反応しなくて」

係長がそう言うので、私は係長の後ろから、係長のパソコンを覗いてみた。


「あ、これならファイルをこっちのフォルダに移せば対応すると思いますよ」

「えっ、本当? ちょっとさ、やってくれない?」

「はい」

「助かるよ〜。どうもこういうのニガテで」

「いえ」


よかった。私にもできることがあった。
私は係長の横に移動し、マウスに手を伸ばして、処理を始めた。



その途中で、月野さんがコーヒーを持って、給湯室から戻ってきた。


「……石川さん、なにやってるの?」

月野さんは、いつもより低い声で私にそう聞いた。
あれ……普段は『広香ちゃん』って呼んでくれてるのに、『石川さん』って呼ばれた……?
まだ怒ってる、ってことだよね……。



「あ、あの、係長のデータの処理を……あ、できました」

私がそう言うと係長が、

「あっ、本当だ! ありがとう石川さん! ほんと助かったよ〜、またなにかあったらお願いね!」

と言ってくれた。


すると月野さんは、

「……係長っ、コーヒーどうぞ!」

と言って、係長のデスクにコーヒーを置く。



そして……。
なぜか私をギロッと睨んで……自分のデスクへと戻っていった……。


ど、どうしよう。コーヒーの件もそうだけど、もしかして係長の仕事に私が手を出すとか、やっちゃいけないことだったのかな……。でも係長は喜んでくれたし……。
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