となりの専務さん
その日も私は定時で仕事を上がれることになった。

でも、月野さんと鹿野さんが見当たらなかったので、あいさつをするため、私は廊下に出てふたりを探していた。


……あいさつもそうだけど、あれから月野さんに避けられ続けていたから、まだ謝れてない……。



廊下を歩いていると、給湯室から女性の話し声が聞こえた。


「……若いからってさ……」

「案外男に媚びるタイプで……」


給湯室の戸を開けると、月野さんと鹿野さんのそんな会話が聞こえてきて、ちょっとドキッとした。もしかして、私のこと……?



「あ、広香ちゃん」

私の姿に気づくと、月野さんはパッと笑顔で私の名前を呼び、手を振ってくれた。


あ……よかった。名前で呼んでくれた。月野さん笑顔だし、声も明るいし、今の会話は気のせいかな?



「あ、あの。私これで上がります。お先に失礼しますっ……」

「了解ー。お疲れ様ー」

「あ、あと、今日はすみませんでした。私、しつこかったり係長の仕事に手を出したり、なんか、月野さんを怒らせてしまったみたいで……」

私が頭を下げてそう言うと、月野さんは
「えー? なにも怒ってないよ? むしろ気にさせちゃってのならごめんね?」
と言ってくれた……。


気のせい、だったかな?


「あ、あの、じゃあお疲れ様でした! 明日もお願いします!」

顔を上げて、月野さんと鹿野さんにそう言うと、私はふたりに背を向けて、給湯室を出ようとドアノブに手をかけた。


その時。



「そーいえば広香ちゃんてさぁ」

後ろから月野さんに声をかけられ、私は振り返った。
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